今年の春以降、父高橋英夫が遺した多数の直筆原稿や自身の揮毫による色紙、ノートに加え、文学者の方たちからいただいた手紙、署名本、書、色紙などの資料を複数回にわたり日本近代文学館に寄贈いたしました。今月発行の館報「図書・資料受入報告」でご紹介いただきましたので、こちらでもお知らせいたします。
父は物を捨てない性格だったこともあり、直筆原稿は文筆活動を開始した直後のものからすべて残っていました。いただいた手紙も同様です。昭和三十年代以降の紙類が蓄積するとこれだけの量になるのかと、整理をする身としては当初絶望感に襲われもしましたが、一つ一つ手にとり仕分け作業をしていく中で、著名な文学者の方たちからいただいた手紙が次々と現れ、その方たちの文字を直接目にすることができたという点で、かけがえのない時間を過ごすことができたと思っています。現在原稿はワープロで書きますし、手紙もメールでやりとりすることがほとんどですが、父の世代はちょっとした連絡もすべて葉書や手紙を通じて行っていました。日頃文章を書き慣れている人たちですので、ペンを手にとって書くという行為は一般の人に比べ苦にならなかったのでしょう。ここでは御名前は出しませんが、和紙の巻紙にたっぷりとした毛筆で書いてこられた方や、日本の近代文学史の頂点にいらっしゃる方の素顔を垣間見ることのできるような葉書など、私の眼から見ても近代文学の宝と思えるものが多数ありました。
寄贈に至るまでの整理には数ヶ月を要しましたが、散逸したり外部に流出することなく重要と思われるものの大半を日本近代文学館にお渡しできましたので、肩の荷が少し下りた気分です。
文学館で資料整理を担当される方には大変なお骨折りをいただくことになりますが、膨大な資料を快く受け入れていただきました。この場をお借りして改めて御礼を申し上げます。いずれ寄贈品のリストが完成したら、具体的な資料名をご覧いただけます。研究者の方でしたら物によりますが閲覧可能ですので、是非ともご活用くださいませ。これらの品々が日本近代文学研究の発展に役立つことを願ってやみません。