心に留まった風景

楼門の滝

早いもので今日から師走です。外気に触れると、これまでとは一変、冬の尖った冷たさを感じます。今年は十月から十一月にかけて比較的気温が高めでしたので、十二月に入ったとたん急に冬が訪れたような気がします。

今朝の空気の冷たさから、先月訪れた楼門の滝を連想しました。

楼門の滝は、京都の鹿ヶ谷から大文字山に向かう山道の途中にあります。霊鑑寺の脇道から数十分上っただけなのに、途中から空気が入れ替わったように一変したのです。昨日から今日にかけての変化とは比較にならない急変でした。別世界に入ったような気がしたというと少々大げさですが、京都盆地を囲む山々には古くから俗界を離れ神仏に祈りを捧げる人々の足跡が残されていますので、感じ取った変化は気温差によるものだけではないかもしれません。以前投稿した霊鑑寺の御本尊如意輪観音は、かつて楼門の滝周辺にあった如意寺の御本尊だったと伝わりますし、霊鑑寺の北にある安楽寺の前身は現在地から東に一キロほどの山中にあった草庵と伝わるように、かつて鹿ヶ谷の東の山中は信仰の場でした。

霊鑑寺の御本尊にゆかりの如意寺は、園城寺の別院として鹿ヶ谷の山中から琵琶湖東岸にある園城寺(三井寺)までの広大な山中にいくつもの伽藍を構えていた山寺です。山中というのは正確には如意ヶ嶽のことですが、そこに京の都と近江を結ぶ如意越えの道が通っており、如意寺の伽藍はその道に沿って点在していたようです。お寺の創建時期は不明ですが、平安時代中頃から南北朝時代までは存在していました。園城寺に鎌倉末から南北朝にかけての境内の様子を描いた「園城寺境内古図」の如意寺幅が伝わっています。それによると下に描かれた楼門の滝の上部に、非常に多くの建物が見えます。その数七十近いといわれ、当時の寺勢を物語っています。

興味深いのは楼門の滝を那智の滝に見立て、滝の上に熊野三山が祀られていることです。標高五百メートルに満たない山ですが、比叡山に劣らぬ一大聖地がここにあったことがわかり大変興味を惹かれます。

 

さて楼門の滝ですが、霊鑑寺の脇の道を歩いていくと、高野山から浪切不動明王を勧進しお祀りしている瑞光院が見えてきます。本堂奥に滝の行場があり、すでにこの辺りから空気が変わった感じがします。瑞光院の先で舗装道が終わり、その先は山道になります。

 

 

 

途中倒木をまたぐようなところもあり、リュックにしなかったことを後悔しながらひたすら上り続けることおよそ二十分。斜面の上に巨岩と滝が見えてきました。

 

先ほど小さく見えていた巨岩がこちらです。

 

周囲には石垣が残されています。滝の向かって左付近に不動堂があったとのことですので、この石垣はその土台だったのでしょう。

 

 

楼門の滝は落差十メートルほど。決して大きな滝ではありませんが、その背後にかつて存在した如意寺と共に聖者たちの信仰を支えてきた滝です。

楼門の滝と呼ばれるのは、滝の奥にかつて如意寺の楼門があったことに由来します。

滝上に「俊寛僧都忠誠之碑」が建っています。平家打倒の企てをした鹿ヶ谷山荘がこの付近にあったと伝えられていることから戦後に建てられたものですが、碑が建っている場所は楼門があった場所なので、ここが山荘跡ということはなさそうです。

ちなみにこちらがその石碑です。

 

 

如意ヶ嶽というとお盆時期の五山送り火の時だけ目が向きがちですが、京都と近江を結ぶ如意越えの道は歴史上重要な交通路でしたので、足腰を鍛えるついでにじっくり歩いてみようと思っています。

 

 

 

 

 

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