古社寺風景

聖天宮西江寺

前回投稿した瀧安寺りゅうあんじの近くにも、神仏習合を伝える聖地があります。西江寺さいこうじというお寺で、大聖歓喜天を御本尊としていることから、大聖宮西江寺とも呼ばれます。

瀧安寺のところで、古代聖域への入り口とされた中ノ坂について触れました。西江寺はその中ノ坂から急な上り坂を百五十メートルほど上がったところにあり、瀧安寺(箕面寺)までも直線距離にして六百メートルほどです。当初は瀧安寺を含む箕面山一帯の聖域入り口を守る役割を担っていたのではないかと想像します。

 

滝道からもお寺へ通じる道があります。滝道からはこの石標が目印になります。この石標に「摂津国神宮寺、聖武天皇勅願寺」とあるように、西江寺となったのは明治に入ってからで、それまでは神宮寺でした。

 

坂道を上がっていくと、西江寺と刻まれた石標と、歓喜天の扁額をかかげた鳥居が現れます。鳥居脇の石柱には、天下太平と万民の豊かな暮らしへの祈りを願って「宇内静謐、萬民豊楽」と刻まれています。

歓喜天がお祀りされているのは冒頭の写真にある本堂ですが、歓喜天の多くが秘仏であるように、西江寺でも拝観することはできません。本堂は昭和二十六年の再建です。

大聖歓喜天は聖天、歓喜天、大聖歓喜大自在天、天尊などとも呼ばれますが、これも弁財天同様に仏教の守護神である天部の一つです。歓喜天はあらゆる障害を取り除き絶大な福をもたらしてくれるという強力な神さまです。その人の望むもののすべて、財を求める人には財を、病気の人には健康を与えてくださる現世利益の代表格として。熱心な信者が後を絶ちません。日本には空海によって密教と共にもたられたとされ、とくに関西圏での信仰が篤いようです。数年前に投稿した生駒の宝山寺がその代表ですし、毘沙門堂の近くにも山科聖天もあります。

歓喜天はヒンドゥー教のガネーシャ神に起源を持つとされています。このガネーシャ神は当初は人の企てを邪魔する悪神でしたが、美女の姿になって近づいた十一面観音によって、仏教を守護する善神に変えさせられたとのことで、そうした謂われから何かを始める際まずはこの神に祈りを捧げなければならないという信仰が生まれたそうです。ガネーシャはやがて大乗仏教に取り入れられ、仏教の守護神になりますが、願いを達成するために最初に祈るべき神という神格は引き継がれています。歓喜天の象頭人身の男女の神が互いに抱擁している姿をしていることが多いのは、ガネーシャが美女の姿となった十一面観音と抱擁している姿を現しているためですが、性的な表現にも見えることもあって、日本では秘仏とされているようです。

その歓喜天ですが、西江寺では役行者が関係していると伝わります。役行者が箕面の滝で修行をしていると、あるとき山が鳴動し、光と共に老翁に化身した歓喜天が現れたことから、ここを日本最初の歓喜天霊場とし、諸願を成就させるために現れたということで、西江寺の開山も役行者と伝えられています。

境内にはそうした謂われを記した石標があります。

 

西江寺については詳しいことがわからないのですが、歓喜天は空海によってもたらされ、密教とともに広まったといいますので、箕面においても平安以降密教の拡がりとともにその信仰がもたらされたのかもしれません。

 

西江寺の境内には、本堂のほかにもいくつかお堂があります。下は大黒堂。大日如来を御本尊に、大黒天や不動明王、弘法大師、役行者がお祀りされています。

 

またこちらは弁天堂。江戸時代末に西国街道から移築されたものだそうで、その名の通り弁財天がお祀りされています。

 

ちなみに、十月半ばに西江寺で行われる秋の大祭は、天狗まつりとも呼ばれるように天狗が登場し舞い踊るそうです。天狗もまた、祖霊信仰や山岳信仰などさまざまな信仰が混淆し時代によって性格も異なりますが、修験道の広まりと共に、神通力があって飛行も自在、山中深くに暮らす天狗は山伏の姿として捉えられるようになります。西江寺の秋祭に登場する天狗は、山から姿を現した神。天狗が舞うことで邪気悪霊が払われるというその場に身を置いてみたいと思っていたら、今年も昨年に続き中止だそうで…。

何にせよ、最強の歓喜天を中心に、様々な信仰が寄り集まっているとあれば、いつお詣りに行ってもご利益はありそうです。

 

 

 

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