梅雨明け宣言はまだですが、連日三十度を超える日が続き、夏本番の今日この頃です。
五月に『テオリア 高橋英夫著作集』第一巻が刊行されてから早二カ月が過ぎ、このたび第二巻が刊行されました。
第二巻は「神話と文学」と題し、父が初期に取り組んだ神話論と、そこから見出された生涯にわたる通底テーマである引用論を軸に編集されています。
本著作集は「テオリア」という題を冠していますが、「テオリア」とは古代ギリシアにおける宗教的な概念「観」、つまり本質直観に由来するもので、父はそれをケレーニイの『神話と古代宗教』の翻訳に取り組む過程で、自身の文学観へと取り込み、発展させていきました。第二巻に収録された「見つつ畏れよ」は、昭和四十七年の作で父にとっては最初期のものですが、その論考の随所にテオリアの理解を助ける文章が散見されます。そうした初期のテオリアに発する論考が、後に『花から花へ』という父にとって重要な引用論の作品へと繋がっていく過程が明らかにされたのがこの第二巻で、編集を手がけてくださった故長谷川郁夫氏には改めて感謝の思いを強くしています。
今回表紙に取り入れてくださったのは、『花から花へ』に収められた「引用とトポス」の原稿です。もともとこの作品は「新潮」での連載でしたので、この原稿もそのときのものです。
このセンス溢れる装幀を手がけてくださった桂川潤さんが、先日急逝されました。お目にかかって御礼を申し上げることができなかったことが悔やまれますが、感謝の思いが伝わっていると信じつつ、心よりご冥福をお祈り申し上げます。
『テオリア 高橋英夫著作集』第二巻 発売は七月十九日頃です。