對龍山荘の庭は千八百坪と広大です。東山を借景にした池泉庭園、園内の樹木がそのまま東山に続いているように風景が連続し拡がっています。また園内に引き入れた琵琶湖疎水の水が池や滝、せせらぎと表情を変えながら高低差のある園内を潤し目を楽しませてくれるばかりか、水の音にも粋な仕掛けがあり、五感で楽しむことができます。最初の持ち主だった伊集院兼常時代の庭は聚遠亭の前の部分で、市田弥一郎の手に渡ると大きく手が入り変化しました。手がけたのは植治こと七代目小川治兵衛です。七代目の庭作りは、水を巧みに用い限りなく自然の風景に近づけることを得意としています。歩くたびに変わる景色に目を奪われるので、散策の足も自然ゆったりとしていきます。
庭園の散策は、北から東に回り込み南に進んでまた西の建物前を北へ、という順路です。園内に引き入れた水は、庭園北が池、南が流れのあるせせらぎと、姿を変えて用いられています。それによって庭の雰囲気が変わります。
庭園に足を踏み入れるとまず腰掛待合があります。そこから庭の北にある池を回り込みながら回遊していきます。
東山の向こうから月が昇る様子をここから愛でることができるよう、樹木が植えられています。
池の北側を歩いていると、先ほど中を見学した對龍台と蔵が視界に入ります。この先庭を一巡すると對龍台の下に出ます。そこには思いがけない仕掛けがあるのですが、それはまた後ほど。
黒松の根元に掛けられた石橋の先には中島(亀島)。
歩を進めると中島の全景が見えてきます。縁にサツキツツジ、東西南北に松が植えられています。もう少し季節が進むと、ここにサツキの色が現れますので、また景色も違ってくるでしょう。
少し高くなった庭園東側から對龍台や蔵がまた見えます。右は中島。このあたりに来ると、水の音が大きくなります。後ろには水車があり園内に引き入れた琵琶湖疎水を滝に導いています。
庭の一番東には藤棚、その北隣には花菖蒲園があります。五千本もあるようで、このときちょうど花菖蒲のお手入り中。今月末頃には藤が、来月には花菖蒲が花開くでしょう。そうすると、庭の東側が一気に華やぎます。
藤棚の南隣には広大な芝生庭園が拡がっています。藤棚との境に三本の桜があり、うち二本が枝垂れ桜です。あいにくこのときはまだ蕾みでしたが、満開の様子を想像するだけでも気持ちが晴れやかになります。
芝庭から西を見ると、木々の間に聚遠亭が見えます。對龍山荘(一)で軒が深いことに触れました。ここから見るとその様子がよくわかります。
四阿の前を通り、庭の南東へ進みます。
先ほどの池とは違い、水に清流のような動きが出てきます。
沢飛から見る中池は先ほどの大池と違って透明度を増し、水面が揺れています。
庭の南西から西側へ。
聚遠亭前に出ます。この辺りの庭園が、伊集院時代のものです。
茶室前の露地庭と流れ蹲踞。この辺りも伊集院時代の姿を留めています。
建物に沿って進むと、船着き場があり、目の前に最初に見た大池が拡がっています。奥には滝。勢いよく落ちる水の音が周囲に拡がっていきます。
對龍台の下に沢飛びが配され、建物の下をくぐり抜けるように進むのですが、ここに庭園散策最後に訪問者を驚かせる仕掛けがありました。
對龍台の脇を流れる水に落差を設けて小さな滝を作り出しています。大池の奥には大きな滝がありますが、その音はここまではよく聞こえません。そこでこの滝を作ることで、對龍台からでも滝の音を楽しめるようにしたのです。大滝の手元スピーカーのような役割をこの小さなな滝が担っています。心憎いまでの演出です。
對龍山荘の庭園散策を終え、庭園を後にしようと思っていたそのとき、大きな白い鯉が水面から飛び上がり、大きな水しぶきを上げました。その水音は、七代目の造園技術をもってしてもなしえないもので、この日は人の手と自然の最高の共演を見せていただいた気分です。
季節の移ろいと共に庭の景色は変わります。新緑もよし、花菖蒲や藤もよし、ツツジもよし、紅葉もよし、そして雪景もよしで、この日目にした庭の景色がこの後どのように変わっていくのか、機会を見つけてまた訪ねたいものです。