心に留まった風景

對龍山荘(一)

昨年桜の季節に南禅寺界隈別荘群の一つ清流亭の様子を投稿しました。清流亭の向かいには別荘群の中で最高峰とされる野村の碧雲荘があり、こちらの桜も通りから見ることができました。碧雲荘は昨年三月に特別拝観の抽選に当たり、長年の念願だった拝観が叶いましたが、こうした機会はそうめったにあるものではありません。別荘群の多くは非公開、明治から変わらぬ姿を保ち続けている名庭を散策しながら季節の移ろいを愛で、瀟洒な建物で時を過ごすことができるのはごく限られた関係者だけです。これまで一般公開されいつでも拝観できる南禅寺界隈の別荘は山縣有朋の無鄰庵のみでしたが、昨年秋に對龍山荘が一般公開されたことで二ヶ所になりました。

對龍山荘は薩摩出身の実業家伊集院兼常が明治二十九年(一八九六)南禅寺の塔頭跡地に建てた別荘(聚遠亭)を清水吉次郎を経て呉服商の市田弥一郎が譲り受けて手を入れ、明治三十八年(一九〇五)に完成したもので、長らく市田(市田商店から市田株式会社)の所有として維持管理されてきましたが、平成二十二年(二〇一〇)ニトリホールディングスの所有になりました。当初は非公開でしたが、より多くの人に見てもらいたいとのことで昨年秋一般公開に踏み切られました。しかも現在は庭園だけでなく建物内にも入ることができ、各部屋に展示されている美術品も含めすべての撮影が可能で、各自自由に見ることができます。(以前はガイドによる説明があったようですが、現在は自由拝観。動画は禁止)このような寛大な公開を決断してくださった似鳥昭雄会長には心から感謝をしつつ、春の對龍山荘の様子を目に焼き付けてきました。

對龍山荘は南禅寺塔頭金地院の西隣にあります。南禅寺に通じる通りは湯豆腐のお店などが並び多くの人が行き交っていますが、路地を南に入るとひっそりとしています。對龍山荘の門はその路地に面しています。

こちらが玄関です。一般拝観者は玄関右の戸口から入り、建物内を一通り見た後、またここに戻り庭園へという流れです。千八百坪の広大な敷地の大半を占める庭園は南禅寺別荘群の多くを手がけた植治こと七代目小川治兵衛によるもので、国指定名勝、近代日本庭園の最高傑作の一つですが、それはまた後ほど。

建物は敷地の西側に寄せ、南北に長い造りになっています。初めに伊集院兼常が造ったのは聚遠亭と茶室です。伊集院兼常は建築と作庭に優れた技術者だったこともあり随所に工夫が凝らされ、建物は庭に張り出すように、逆に入れば庭を取り込むように建っています。詳細は後に譲りますが、後にこれらの西側(道路側)に東京の大工棟梁島田藤吉の手で對龍台と居間棟などが増改築されました。

對龍山荘の名は、南禅寺の山号瑞龍山に対していることから、庭園回収後に谷鉄臣によって名付けられたとのこと。

見学はまず對龍台から。

 

對龍山荘の筆は山縣有朋によるもの。有朋の無鄰庵はこのすぐ近くにありますので、交流があったようです。

 

ゆったりとした書院。さざ波のような手すきガラス越しに、東山を借景に取り入れた庭が見渡せます。

終わりかけの紅梅が、桜の季節への移ろいを告げていました。

 

 

床の間には橋本雅邦の雲龍図。龍にからめた粋なしつらえです。

對龍台に続く蔵には楽茶碗や柿右衛門の壺など美術品が展示されています。そこを拝観した後、階段を上がって居間棟の二階へ。

北側の窓から外を見ると金戒光明寺の三重塔が見えます。

 

對龍山荘の庭も琵琶湖疎水の水を引き込み、自然の小川のような景観を作り出しています。二階から見ると、水の流れがよくわかります。

室内には江戸中期の関ヶ原合戦図屏風や、霊元天皇の宸翰など。

二階からまた一階に下りてくると、美術品の展示された別の蔵があります。そこに展示されているのは竹内栖鳳や伊藤小波、池大雅といった掛け軸など。それらを拝観した後、居間棟の一階の各部屋を経て、最初期に建てられた茶室と聚遠亭へ。

聚遠亭は軒が深く床が低いのが特徴で、これにより庭と建物が一体となります。ここに座って庭を見ると、畳から庭が続いているように感じられます。

建物内の見学を一通り終えたら、入り口に戻り、靴を履いて庭園へ。

 

 

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