四年ぶりに完全な形で行われた京都の祇園祭は、二十八日の神輿洗、二十九日の神事済奉告祭、三十一日の疫神社夏越祭を残すだけとなりました。祇園祭の時期が暑いのは当たり前と思っていますが、今年はその暑さが一段上を行っているように感じます。とにかく暑いです…。そんな酷暑の中のお祭ですので、山鉾の巡行にしても御神輿の渡御にしても、数時間炎天下に居続けるのはかなりの覚悟が要ります。今夏は事情により体力温存の必要があり、巡行はテレビで楽しむことにしましたが、それでも前祭と後祭の宵山(宵宵山)には出かけました。前祭は通りに露店が出ますので、若い人も多く、広くはない室町通りや新町通りなどは、露店のところがボトルネックになり、東京山手線のラッシュ時さながらの状態です。山鉾そっちのけで食べ歩きとお喋りに興じている人たちにもまれながら歩くのは歳を重ねた身にはなかなか大変で、目的を達する頃には足も痛くなり、疲労困憊でした。ただ前祭には祭の活気が溢れていますので、この雰囲気に身を置くことで、夏を乗り切る力を得られるような感じがします。
後祭は露店が出ないこともあって、お祭そのものを見に来ている人が中心ですので、全体に落ち着いた雰囲気です。後祭が行われるのは前祭の一週間ほど後で、まだまだ夏の盛りです。実際かなり暑いのですが、夕暮れ時の風にほんの一瞬秋の気配が感じられることがあります。お盆を過ぎると、ぐっと季節が進んだ感じがしますが、あの感覚を十分の一ぐらいにしたような、ほんのわずかな季節の進行の気配といったら良いでしょうか。酷暑の最中ほんの一瞬肌を掠める秋の気配は、それから半月ほどで訪れるお盆を予感させるものでもあります。
後祭にも豪華な山鉾が出ますし、お祭ならではの活気や華やぎも当然ありますが、前祭のそれとは異なるものに感じられます。私はこの後祭の雰囲気が好きで、結局二度京都に足を延ばしました。
祇園祭で山鉾が出る期間は、通りに面した商家や町屋などが自分たちのところで持っている美術品を飾り、道行く人に公開しています。屏風祭と呼ばれていますが、町屋や商家に入ったり、窓から家の中をのぞいたりできるとあって、これも宵山の鉾町歩きの楽しみの一つです。屏風祭をやっている場所を一覧にしたサイトもあるようですが、それを見て訪ねるということはしません。気の向くまま通りを歩いていると、ふと目に留まる。その予期せぬ出会いがまた楽しくもあるのです。
冒頭と下の写真は、現代の京町家(祥雲邸)で八幡山に伝わる美術品を展示する屏風祭の様子です。
こちらはそのすぐ近くにある箏と三弦教室のお宅の屏風祭です。奥行きを感じさせる展示が印象的です。
また新町通りにもすばらしい展示が見られます。下は藤井絞りさんの屏風祭です。
同じ新町通りには吉田家の屏風祭も。屏風もさることながら檜扇が立派です。
こちらははて、どこだったか…ですが、奥行きがあり、品格のある屏風祭です。
このほか、写真はありませんが京友禅の老舗千總さんのギャラリーでも、所蔵する屏風を展示されています。今年の展示は円山応挙、岸竹堂、吉村孝敬の三点。美術館クラスの展示でこちらも見事です。
宵山(宵宵山)では、各山鉾の会所に飾られた御神体や山鉾を飾るタペストリーなどを拝観することもできます。下は鯉山の会所の様子です。
巡行の際は御神体に手を合わせるというのがなかなか難しいですが、会所ではゆっくりそれができます。
下は八幡山です。山鉾巡行はその豪華絢爛な装飾が眼に付き、見学者の立場ですと神事ということを忘れがちです。ですが山鉾町の方たちは祇園祭の間は常に神様を意識されていますし、こうして各会所を巡ると山鉾には神様がお乗りになっているというのがよくわかります。
祇園祭は先日綾戸國中神社のところでも触れた午頭天王信仰や各山鉾町の歴史が融合した大変奥深いお祭です。また来年も祭の場に身を置くことができますように。