一昨年と去年は感染拡大への懸念から、火床の数を大幅に減らして五山送り火が行われました。先祖の霊を送り無病息災を願うお盆の行事にまで影響が及んだことが残念でなりませんでしたが、今年はようやくコロナ前と同じ数の火床が設けられ、京都の町を囲む五つの山に点火されました。
点火予定時刻が近づいた午後七時半前から空全体が異様に光り始め、しばらくして猛烈な雷雨に見舞われました。一向に雨脚が弱まる気配がなく、このまま雨の中点火されるのかと思っていたところ、八時少し前に小降りになり、点火時刻には雨はすっかりあがっていました。三年ぶりの完全な形での送り火ということで、保存会の方たちも心を込めて準備されたでしょうから、せめて五山に火が灯される間だけでも雨雲が去ってくれないかと思っていたら、本当にそうなりました。まさに天の助けです。
大雨の影響で点火が遅れたものの、暗闇に包まれていた山に、一点、また一点とオレンジ色の炎が増えていき、ついに大文字山に大きな大の文字が浮かび上がってきたときは静かな感動を覚え、京都の町全体で祖霊を送るこの行事に改めて感じ入りました。
一番有名な「大」が東山三十六峰の一つ如意ヶ嶽の支峰大文字山に浮かび上がると、五分後に松ヶ崎の万灯籠山に「妙」、大黒天山に「法」が、さらに五分後に西賀茂の明見山に船形、そこからさらに五分後に大北山に左大文字、最後は北嵯峨の水尾山に鳥居形が現れます。送り火の炎が京都の北東から北を経て北西へとリレーで送られるように灯されていきます。
あいにく良い写真が撮れませんでしたが、私がいる場所から鳥居型以外は見ることができました。
祇園祭と五山送り火が通常の形で無事に行われ、ようやく本来の京都の夏に戻りました。
送り火の後何となく寂しくなるのは、強烈な陽差しも力を弱めるからかもしれません。これから少しずつ季節は秋へ。