古社寺風景

阿為神社

大阪北部の茨木市と高槻市に、藤原氏の祖である藤原鎌足にゆかりの場所がいくつかあります。そのうちの一つ、阿為神社が今年最初の投稿です。

社名の「あい」が五十音の最初の音ということで、一年の始まりに相応しい感じがしたから…というのは屁理屈で、寒さで体が縮こまってしまい計画している街道歩きをする元気がなくまずは近場からというのが正直なところですが、実際に足を運ぶとそこから芋づる式に次に訪ねるべき場所が見つかるというのは、ここにおいても例外ではなく、阿為神社のおかげでようやくエンジンがかかりました。

茨木市は南北に長く、北には北摂山地が連なっています。茨木市の北は京都の亀岡に隣接していますが、その亀岡の山中に発する淀川水系の安威あい川が南に向かって流れている途中に安威という場所があります。阿為神社はその安威の北部にある花園山と呼ばれる小高い場所に鎮座しています。山の南には今も古い集落が残り、歴史を感じさせます。集落一帯はかつては三島郡安威村だったように、このあたりは古代三嶋と呼ばれた地域、安威の「あい」は藍に由来するようです。

藍というと、同じく三嶋にある継体天皇陵も藍を冠し三島藍野稜と呼ばれていました。『日本書紀』継体天皇二十五年のところに「冬十二月の丙申ひのえさる朔庚子ついたちかのえねのひに、藍野稜あいののみささぎはぶりまつる」とあるのがそれです。継体天皇陵については以前の投稿もご覧いただけたらと思いますが、現在は高槻市郡家にある今城塚古墳が継体天皇陵であるとされています。安威川とその東を流れる芥川に挟まれた場所に古墳は築かれており、その一帯が藍野と呼ばれていたということでしょう。古代この辺りは藍の自生地で、染色を行い朝廷に奉仕する人が暮らしていました。藍野という地名もそこに由来します。その藍野は物部氏によって統轄されていたようですが、物部氏は仏教受容を巡って蘇我氏と対立、用明天皇二年(五八七)物部守屋が蘇我馬子によって滅ぼされます。物部氏が関係する土地はどこも大きな変動を強いられました。藍野も例外ではなく、藍野では物部氏に代わり蘇我氏が入ったようです(安威からほど近い現在の高槻市月見町から石川年足の墓誌が発見されています。石川氏は蘇我氏の後裔で、付近のかつての地名などから、蘇我氏の支配下にあったことが考えられるようです)が、その蘇我氏も皇極天皇四年(六四五)中大兄皇子と中臣鎌子によって蘇我入鹿が暗殺されるという乙巳の変によって、蘇我氏宗本家は没落滅亡します。蘇我氏宗本家の後、藍野を支配下に置いたのが、『新撰姓氏録』などに名前のある「中臣藍連」、中臣氏と言われます。冒頭に名を上げた藤原鎌足は中臣氏で、元は中臣鎌子と名乗っていました。

『日本書紀』皇極天皇三年のところに次のような記述があります。

三年の春正月はるむつき乙亥きのとのゐつひたちのひに、中臣鎌子連を以て神祇伯かむつかさのかみす。再三しきり固辞いなびてつかへまつらず。病をまうして退まかりいでて三嶋にはべり。

三嶋には中臣鎌子の別業があり、そこに隠棲したということで、ここからも三嶋の地と中臣鎌子との関わりがうかがえます。

 

さてそこで阿為神社ですが、主祭神は天児屋根命あめのこやねのみこと、中臣氏の祖神です。冒頭藤原鎌足に縁の一つと書きましたが、中臣藍連が中臣氏の祖神をお祀りしたという方が正しいのかもしれず、直接鎌足が関係しているかどうかはわかりません。とはいえ、阿為神社の東隣にある大念寺という浄土宗のお寺は、寺伝によると藤原鎌足が学問僧恵隠法師を招き、斉明天皇二年(六五六)鎌足の長子定慧によって開かれたというように、当地周辺にいくつか藤原鎌足との関わりをうかがわせる史跡がありますので、無縁ではないのでしょう。

境内は小高い山に抱かれ、静寂に包まれています。社殿はそれほど古いものではありませんが、古代からの安威、藍野一帯の歴史と共にある神社です。今年もまたさまざまお導きいただけるよう、手を合わせてまいりました。

 

境内には八幡神社、秋葉神社、出雲神社、鹿島神社、市杵島姫神社、金山彦神社、大歳神社、菅原神社、稲荷神社の祠があります。檜皮葺の古いものは覆い屋に収められており、古さという点ではこちらの方が拝殿より古いかもしれません。

 

山の上には稲荷神社。

 

近くにあった将軍山古墳から三角縁唐草文帯二神二獣鏡が出土し、阿為神社が所蔵しているそうですが、この鏡は鳥取県と島根県から出土したものに似ているとのこと。境内に出雲神社がお祀りされていることからも、出雲との関わりをうかがわせます。

 

現在の阿為神社から南に二キロほどの西国街道沿いに、阿為神社の御旅所があります。阿為神社はもともとこの御旅所の位置にあり、安威川の氾濫によって高台の現在地に遷されたようです。

 

藤原鎌足ついでに、もう少し周辺にある鎌足にゆかりの史跡を巡ってみたいと思っています。

 

本年もどうぞよろしくお願いいたします。

 

 

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