早いもので九月も半ばになりました。秋風と共に、『テオリア 高橋英夫著作集』の第三巻が届きました。
第一巻、第二巻は父の初期の評論が中心でしたが、第三巻からは五十代以降の仕事になります。硬質堅牢な評論が、少しずつ緩やかにほぐれ、言葉の間に風が吹き抜けるような印象を私は校正を通して感じました。これまでの巻と比較して、読みやすさも増していると思います。
第三巻は代表作の一つ『偉大なる暗闇』を中心に、ドイツ文学と友情論に関連した文章が収録されています。『偉大なる暗闇』は夏目漱石の『三四郎』に登場する広田先生のモデルとされる、一高の名物教師岩本禎の評伝です。その周辺にいた鴎外、漱石、志賀直哉、竹山道雄といった文学者たちを含めて描かれた、明治から昭和にかけての思想史、精神史として評価いただき、平林たい子章を受賞しています。
その流れで収録されたのが、岩波書店から二〇〇五年に出た『果樹園の蜜蜂』と、二〇〇一年に岩波新書として出た『友情の文学誌』です。前者は岩波の「図書」に連載された文章が元になっています。
書店での販売は少し先になるかと思いますが、ご関心がありましたら是非お手に取っていただけますと幸いです。