先日、線香花火をいただきました。
それは八女の和紙の先端を草木染めでほんのり色づかせた手作りの線香花火で、火をつけてから消えるまでのほんの十数秒間に繰り広げられる火花の一生がすばらしかったので、是非皆さんにもという、贈り主のその方らしいきめ細やかな心遣いでした。
子供のころ、夏になるとよく縁側で花火をしました。四十年以上前のことなので、今のように派手なものはありません。子供向けの花火セットの中に入っていたのは、シューっと勢いよくススキの穂のように直線的に火花が吹き出るものや、細かな火花が降り注ぐように吹き出るもの、地面に置いた筒から火花が噴射するといったたぐいの花火でしたが、そこには必ず線香花火が入っていました。
線香花火は子供心にも一番好きな花火でした。丸いオレンジ色の火の玉を落とさないようにそっと持つのは、小さな子供には難しく、せっかくこれからというときに、ぽとりと火の玉を落としてしまい、がっかりもしましたが、十数秒の火花の移り変わりをしっかり見届けることができたときはじんわりと嬉しく、最後火の玉が小さくしぼんで暗闇に消えていったときは、子供心にももの悲しい感じがしたものです。
台風が去った秋のお彼岸に、八女の和紙に包まれた線香花火に火をつけました。
先端に芽生えた小さなな火の玉が、やがて火花を放ち、それが徐々に華やぎを増していったかと思うと、一本一本火花の線が闇に吸い込まれていき、火の玉も光を失う。
ほんのわずかな間に、人の一生にも喩えられるドラマが展開します。
大人になった今だからこそ、線香花火の本当の良さがわかるようになったような気がします。
いただいた線香花火は、福岡県みやま市にある筒井時正玩具花火製造所のもの。ここの線香花火は純国産にこだわり一つずつ手作りされています。火薬には宮崎産の松煙、紙は福岡県八女市の手すき和紙を用い、その和紙の先端をエンジュや梔、蘇芳などで染めています。
筒井さんの線香花火は、途中で火の玉が落ちるということがなく、火花が暗闇に描く松葉のような線も力強く感じられます。それは微妙な加減で和紙を撚っているからだそうです。熟練した職人技が息を呑むような十数秒を生むのです。
線香花火は夏だけではもったいない。秋にやってみてそう思っていたところ、実際筒井さんの線香花火は一年を通して楽しめるよう、季節をイメージして草木染めの色を染め分けていると知りました。