鈴鹿峠を越え、鈴鹿山脈の西側に出ると、そこは滋賀県甲賀市の土山町です。鈴鹿の山々の懐に入り込んだような土山の三つの集落で、花笠太鼓踊りが行われています。
冒頭の写真は毎年四月の第三日曜日に行われている黒川の大宮神社での様子です。
目がちかちかするような柄の衣装を身に纏い、山鳥の羽根を飾ったシャンマと呼ばれるかぶり物に鬼の面を付けた棒振り、同様の衣装に紅白のシデを垂らした笠をかぶった太鼓打、先導役の法螺貝吹き、紅白のシデを垂らした笠をかぶった歌出しと大勢のガワと呼ばれる人々…。
こうした見慣れない出で立ちの人たちが二つの組みに分かれ、それぞれの集落を練り歩いた後、橋のたもとで合流し、大宮神社に向かいます。
神社に到着すると早速踊りの奉納です。棒振りと太鼓打を中心に歌出し、ガワ、法螺貝吹きが輪になり、歌に合わせて独特の舞が繰り広げられます。
同様の踊りが土山の黒滝や山女原でも行われています。
こちらは七月に行われる黒滝の様子です。黒滝ではまず区長さんのお宅で踊りが奉納された後、惣王神社に向かいます。
曲は日のばやし、神楽踊り、天王踊り、住吉踊り、山神踊りなど十二曲。歌出の手にはそれらの曲の歌が書かれています。
こちらは黒川と同じ日の午後に行われる山女原の様子です。丈高い木々に囲われた上林神社で奉納される踊りは黒川や黒滝に比べしっとしと幻想的でした。
黒川、黒滝、山女花で行われている花笠太鼓踊りは、室町時代に流行した風流踊りを元に、雨乞いとその返礼を形にしたものです。
このあたりは河川はあっても水量が少なく、日照りが続くと雨乞いをするという風習が古くからありました。
雨乞いは宮籠りに始まります。それで効果がない場合は各家で笹を軒に出したり、お百度を踏んだり、鉦や太鼓を鳴らしたり、松明をもって山に上るなど、ありとあらゆる手を尽くします。それでもだめだったとき、最後の手段として行われたのが太鼓踊りでした。
人々の命をつなぐために切なる願いで奉納されたのが花笠太鼓踊りです。これからも末永く伝えられていくことを願ってやみません。
土山の黒滝、黒川、山女原の花笠太鼓踊りは、滋賀県の指定無形民俗文化財に指定されています。
山女原の花笠太鼓踊りについて、拙著『近江古事風物誌』でも一章を設けて書いていますので、ご関心がありましたらこちらもどうぞご覧くださいませ。