寄り道東海道

本坂峠

現在舞阪・新居間には橋が架けられ、簡単に行き来することができますが、明応の大地震で今切れが出来て以来、旅人はそこを船で渡らなければなりませんでした。さらに時代を遡った古代はというと、今切れはありませんでしたから、浜名湖の南を歩いて往来できたのですが、主な交通路として使われていたのはそちらではなく、浜名湖の北を通る本坂越えの道でした。

本坂越えの名は、現在の静岡県と愛知県の境にある本坂峠に由来し、本坂道、本坂通とも呼ばれます。中世以降浜名湖の南を通る道(東海道)が整備されるとメインはそちらに移り、本坂越えは高潮などの影響で東海道が通行できなくなった時の迂回路となり、次第に往来が減っていきました。

本坂越えはまた、いつからか姫街道とも呼ばれています。連載の舞阪でも少し触れたように、その由来についてはっきりしたことはわかりませんが、東海道の取材と並行してこの道を歩いてみたところ、見付と御油を結ぶおよそ六十キロの道のりにはいまなお豊かな自然が残り、静かで鄙びたこの道に姫街道という名はふさわしいように思いました。

姫街道の中でも特に浜名湖周辺は、峠道あり、湖あり、古社寺ありで、風景を愛でる楽しみが続く良い道ですので、東海道の連載が終わった後にでも、何らかの形で整理して投稿したいと思っていますが、それはそれとして、先日ちょうど東海道が今切れを越えましたので、今日は難所という点で今切れと対になる本坂峠の様子を少しご紹介いたします。

上の案内でもおわかりいただけるように、本坂峠は浜名湖の北西、静岡県と愛知県の境にあります。何度か車の通れる舗装道と交差しますが、大半は山道で、倒木や蜘蛛の巣に行く手を阻まれる場所もあります。

高さ四メートル、幅十メートルの巨石に圧倒されることも。昔は光って姿が写ったことから、鏡岩と呼ばれます。

こちらは椿の原生林。樹齢二百年以上のものもあるそうです。花の季節にはうら寂しいこの道が華やぎそうです。

 

  

峠は三二八メートル、鬱蒼とした木立の中の峠です。

 

 

  

茶屋跡や一里塚の表示から、かつての往来が偲ばれますが、現在はまず人に会うことはありません。ちなみに嵩山すせの一里塚は日本橋から数えて七十三番目の一里塚です。後ろに小さく盛り上がって見えるように、かろうじて原型を留めています。

昔はいま以上に鬱蒼として歩きにくい道だったのでしょう。とはいえ、往来は現在よりもあったでしょうし、休む場所もありましたので、私が江戸時代の旅人だったら東海道ではなく姫街道を選んだかもしれません。

ちなみに姫街道には、この本坂峠の東に引佐峠もあり、こちらも歩き甲斐のある道です。

 

関連記事

  1. 寄り道東海道

    山中八幡宮

    赤坂・藤川間はおよそ十キロ。御油・赤坂間が一、七キロほどと短かったこと…

  2. 寄り道東海道

    常楽寺

    長寿寺の北西一キロほどのところにあるのが、長楽寺同様阿星山五千坊の一つ…

  3. 寄り道東海道

    帯笑園

    旧東海道原宿の中心部からほんの十数メートル南に入ったところに、原の素封…

  4. 寄り道東海道

    近江国衙跡

    瀬田の唐橋の東一キロほどの大江というところに、古代律令制の時代、中央か…

  5. 寄り道東海道

    建部大社

    近江国庁跡から西に六百メートルほどの神領というところに、近江国一宮の建…

  6. 寄り道東海道

    岩屋観音

    二川の西に岩屋緑地があります。二川宿を出た旧東海道は火打坂の交差点を北…

最近の記事

連載記事

  1. 登録されている記事はございません。

アーカイブ

  1. 心に留まった風景

    俊徳丸鏡塚古墳(高安千塚古墳群)
  2. 古社寺風景

    屯倉神社
  3. 寄り道東海道

    岩屋観音
  4. 祭祀風景

    百舌鳥八幡宮 ふとん太鼓
  5. 古社寺風景

    海住山寺
PAGE TOP