掛川では昔から葛布が作られてきました。
掛川の山中の滝で修行をしていた行者が、水にさらされた葛の蔓が繊維として使えるのではと目に留めたことに始まると言われていますが、具体的に歴史に登場するのは鎌倉時代からだそうです。
当初は蹴鞠の奴袴に用いられていましたが、江戸時代には裃地、乗馬袴地、合羽地などに使用され、掛川が東海道の宿場として繁栄するのに合わせ、葛布も広く世間に知られるようになりました。
明治に入り、武家階級の転落や生活様式の急転により大半が転業を余儀なくされるなか、巾を変えて襖地として生産したところ大好評を博します。さらに明治後半には壁紙として海外に輸出、最高級壁紙としてこちらも大好評でした。
戦後、安い韓国産に押され、掛川の織元は現在三軒になりましたが、掛川葛布の伝統を守り伝えています。
葛は表皮、繊維、芯の三層からなっています。葛の蔓を煮てから水に晒し、発酵したところで表皮を取り除き、中心部分を抜き取ります。それを水に晒してアクなどを取り除き、乾燥させて細く裂き、結んで糸状にしたものを織っていくという工程です。大変手間がかかりますが、絹とはひと味違った光沢と手触りが魅力です。ちなみに美しい光沢を出すには、発酵から洗いの工程が重要なのだそうです。
冒頭の写真は、葛布で作られたペンケース。掛川城のすぐ近くに店を構える小崎葛布工芸さんで作られたものです。
お店にはペンケースのほか、カラフルな財布やバッグ、傘、草履、テーブルセンターなどが並んでいます。実は一番惹かれたのは草履でした。葛布の草履は履いたとき適度な摩擦が生じ、足袋がすべらずとても歩きやすいのです。
山内一豊が掛川城に設けた曲輪の一つ竹の丸に、江戸時代から続く葛布問屋を営んでいた松本家の本宅(明治三十六年築)と大正時代に増築された離れが移築されています。離れの貴賓室には葛布が使われていますが、上品で素敵でだなと思います。