狩野川の河口に沼津漁港があります。往路では余裕がなく寄り道できなかったので、復路で漁港まで足を延ばしてみました。
バスを降りると、あちらこちらで寿司と書かれた幟がはためき、「あじ」「生しらす」「桜エビ」の文字が看板の上で踊っています。
通りには干物を並べた店がずらり。店先に豪快に並べられた鮪や金目の頭の煮付け、籠に盛られた鰺や梭子魚などの干物が飛ぶように売れていきます。
脂の乗った良質な鰺がたくさん捕れる上に、日照や水、風が良いので、美味しい干物が出来るのだそうです。確かにその日も快晴で、昼ごろから急に風が強くなっていました。水というのは、三島で湧水地を見たあの柿田川の水だそうですから、それなら美味しいでしょう。あれもこれも買いたいところですが、この先まだ歩かなければならない身では干物一籠がせいぜいです。
「全部沼津沖で捕れたもの。美味しいよ」
とある店で声をかけられ、そこで一籠買うと、その足で展望台に向かいました。
沼津港の外港と内港の境に、最近津波よけの巨大水門が造られました。展望台はその上にあり、一面ガラス張りの回廊から駿河湾はもちろん、運が良ければ富士山も見えると聞いていたからです。
行ってみると、写真の通りの見事な眺望でした。真下には先ほど歩いた魚市場、すぐ後ろには標高二百メートル前後の山並み。
視線を右にずらしていくと、そこはもう狩野川の河口です。ゆったりとした川幅の狩野川は、先ほどから強くなってきた風で白波を立てながら、紺瑠璃の駿河湾に注いでいます。
はるか向こうの山並みは、由比から興津にかけてでしょうか。目を凝らすと薩埵峠、さらに視線を西にずらせば、海面すれすれに日本平も見えます。ということは、そこには駿河湾のもう一つの大きな漁港、清水港があるはずです。
さらに回廊を進むと、千本松原が緑の太い帯状になって、海岸沿いに延びているのが見えます。風が急に強まり、コンクリートの水門の下を音を立てながら吹き抜け、松林を揺らし始めました。
その強風で雲が吹き飛ばされ、隠れていた富士山がほんの一瞬姿を現してくれました。