大都会新宿から電車で西に一時間ほど行くと、窓の外は多摩川上流の渓谷風景に変わります。JR青梅線の御嶽駅から沢井駅にかけての多摩川は吸い込まれそうな瑠璃色で、川沿いを歩くのはとても気持ちがよいのですが、今回訪ねるのは御岳山です。
標高およそ九二九メートル。都心から近いこともあって登山やハイキングに人気の山ですが、ここは古くは霊山として崇められた山岳信仰の山で、その信仰はいまも連綿と続いています。
写真の風景、少しぼやけてしまいましたが、左上に集落が見えるのがおわかりでしょうか。御岳山は秩父多摩甲斐国立公園の一部なので、民家の新築や増築、車の乗り入れなどが禁止されていますが、山上には現在三十数軒がひしめくように建っています。下界から切り離された天空の集落の趣。実はこれ、御岳山の信仰を支え広める御師の集落なのです。
さっそく御師の集落に入ってみましょう。
家を建てられるスペースはごくわずか。そこに肩を寄せ合うように御師の家々が建ち並んでいます。
このように立派な門構えの宿坊もあります。
集落を抜けさらに山を登ると、武蔵御嶽神社があります。かつては神仏習合で御嶽山蔵王大権現と呼ばれていたように、ここは中世修験道の一大中心地として、山伏たちが集落を作って生活していました。山伏たちはそこで布教活動を行うだけでなく、参拝に訪れた人たちに宿を提供しもてなしもしました。
それが現在まで続く御師集落の起源で、いま見るような集落ができたのは、江戸時代の初め頃と言われています。
かつては各地にあった御師の集落ですが、いまは少なくなりました。御岳山のように下界から隔離された山上にある集落はなおさら貴重です。
神社までの道沿いには、このようにたくさんの講碑が立っています。生まれ育った練馬の講碑もありました。
御師集落を抜け、さらに急な勾配の道を上っていくと、ようやく武蔵御嶽神社です。この日は天気がよかったので、山登りやハイキングの人がほとんどですが、皆さん必ず神社にはお参りしていくようで、人の列が絶えることはありません。
現代にあっては、観光・レジャーと信仰の聖地は持ちつ持たれつのようです。