東京の駒場にある日本近代文学館で、秋季特別展「編集者 かく戦へり」展が始まりました。
昨年夏に父高橋英夫の旧蔵品を日本近代文学館に寄贈しましたが、このたびの展覧会ではそのうちの一点が展示されています。
文学館には書き手側の資料ばかりか編集者の手元にあった資料も数多く寄贈されています。今回の展覧会はそれらを組み合わせることで、編集者の役割や人となりが浮き彫りにされています。直筆資料があって初めて成り立つ企画ということを考えると、原稿はパソコンで、連絡はメールで行われる時代では同様の企画は不可能でしょう。直筆資料がいかに多くの情報を伝えてくれるかということを、改めて感じさせられました。
第一部は原稿依頼に関する展示、第二部は編集者が書き直しを要求したり、作家が締め切り延長を懇願したりと、それぞれの立場における攻防を示す展示、第三部は作品に対する編集者の関わりを明らかにする展示、第四部は編集者に対して作家や同業編集者から寄せられた励ましや謝意を伝える展示。
父の展示は第三部「一つの作品が世に出るまでには…」で、『疾走するモーツァルト』について、「新潮」編集長の坂本忠雄氏がどのように関わったかを、父の直筆原稿と坂本氏のメモを付き合わせることで明らかにしています。
大正時代「中央公論」編集長を務めた滝田樗陰、戦後河出書房で活躍し「文藝」編集長も務めた坂本一亀(坂本龍一氏の御尊父)、昭和から平成にかけて三十六年間「新潮」に在籍し文学界をリードした坂本忠雄。この三氏に関する資料を中心に、作家側から、あるいは同業編集者からの視線も織り交ぜながら、編集者の仕事や顔が明らかになっていきます。
文学館の展示は、美術展と違いぱっと観てわかるものではありません。ときには細かい字やよみにくい字に目を凝らし資料を読んでいく作業が求められますが、直筆の文字からはその人柄が想像できます。またときおり胸にささる言葉があると、それを記す書き手の表情も脳裏に浮かびます。作品が生まれるまでの道のりは果てしない、けれどだからこそ完成したときには喜びがあり、それがさらに文学賞を受けることになれば、作家と編集者の結びつきはより強いものになる。どちらも内に熱いものを秘めていますから、お互い譲らないこともありますが、両者がうまくかみ合うと良い作品が生まれるのだなと、そんなことを感じながら展示を見ました。
ご関心のある方は是非お出かけください。十一月二十三日まで開催されています。
なお、47newsで展覧会のことが紹介されています。写真も掲載されており展覧会全体の様子がよくわかりますので、こちらも合わせてご覧ください。