祭祀風景

祇園祭 後祭 山鉾巡行

祇園祭の山鉾巡行が本来の形である前祭と後祭に分かれてから今年で十年目になりますが、後祭の巡行をまだ実際に見たことがありませんでした。宵山の前夜、会所で拝見した御神体や懸想品がどのように山鉾に乗せられ、正装した姿を見せてくれるのか、初めてということもあって楽しみです。

後祭の巡行は前祭さきまつりとは逆方向になりますので、出発地点は烏丸御池からすまおいけです。出発は朝九時半。後祭で巡行する山鉾は十一基で、順に御池通を東に進み、京都市役所前で最初の辻回しが行われます。その後河原町通を南下し、四条通との交差点で二度目の辻回しが行われます。その後烏丸まで進み、それぞれの山鉾町に帰っていきます。午前中いっぱいかかる巡行をどこで見るかによって、受ける印象も変わってきます。今回は御池近くに泊まっていたので、まずは出発地点に近い東洞院通付近で出発の様子を見ることにしましたが、泊まったおかげで巡行前に山鉾町で準備をしている山鉾を見ることもできましたので、まずはそちらの様子から。

こちらは烏丸通の鈴鹿山。

 

  

鈴鹿山から三条通を西に進むと役行者山。御神体が山に乗せられ正装が整っています。

 

三条通では鷹山も動き出していました。空模様が少々怪しく、ときおりぽつんと雨が。鷹山は雨に備えビニールの覆いをかけています。

 

  

宵山のところでご紹介した黒主山。山の上に御神体が乗せられ物語の舞台が完成しています。

 

こちらは鯉山ですが、山の上に肝心の鯉がいませんし、山を飾る豪華なタペストリーもありません。一体どうしたのかと思いましたが、これは完全雨仕様なのだそうです。

 

各山鉾は準備を整え、出発地点の御池通に向かいます。私も場所取りのため東洞院通へ。

ほどなくして巡行が始まりました。後祭で巡行する山鉾は十一基。前祭が二十三基ですからコンパクトな印象です。

巡行順は一番橋弁慶山と二番北観音山、六番南観音山、十番鷹山、十一番大船鉾がくじ取らずで順番が固定されていますが、それ以外は毎年くじ取り式で巡行順が決まります。

最初に登場したのはくじ取らずの橋弁慶山。橋の上に弁慶と牛若丸が乗り、躍動感に溢れています。

 

二番目は北観音山。こちらもくじ取らず。冒頭の写真も北観音山です。

古文書によると北観音山は応仁の乱の百年前から存在していたようです。北観音山は六角町にありますが、そこには三井家と伊藤家(松阪屋)といった富豪がいたため、巨額の出資が得られたことから、このような豪華な山を作ることができたとのこと。前、横、後ろ、どこを見ても見事です。巡行の時、後ろに柳の枝を差しています。柳は衆生に寄り添い救おうとする観音菩薩の誓いの証ということで、邪気除けの願いをこめて付けているそうです。

 

三番目は黒主山。巡行を控え待機している場にも遭遇しましたが、やはり巡行のときが一番美しく見えます。

 

四番目は鯉山。完全雨仕様のため豪華な姿を拝見できず残念でした。本来なら、鳥居の奥に左甚五郎作の巨大な鯉が乗り、復元新調したものではありますが、ベルギーからもたらされた豪華なタペストリーで飾られます。(重要文化財のため巡行時は復元新調したものが使われます)

このときはがっかりしたものの、鯉山の判断は大正解でした。巡行がほぼ終わりかけ、山鉾がそれぞれの町に戻りかけた頃、ゲリラ豪雨に見舞われ、びしょ濡れになってしまった山鉾もあったようです。

 

五番目は鈴鹿山。伊勢の鈴鹿山で通行人を苦しめた鬼を退治した鈴鹿権現を御神体としています。

 

次が六番目、くじ取らずの南観音山です。

先ほど北観音山が通っていきましたが、応仁の乱の後山鉾が復興した際に観音山は二基あり、それが北観音山と南観音山ということで、応仁の乱の頃は隔年交替で山を出していたそうです。南観音山は百足屋町にあります。ここも豪商が多く住む町だったそうで、北観音山同様、南観音山の懸想品も大変豪華です。

 

七番目は浄妙山。平家物語の宇治川の合戦をもとに、三井寺の僧兵の頭の上を一来法師が飛び越える瞬間を表現しています。橋弁慶山と共に大変躍動感のある山です。

 

続く八番目は八幡山。八幡という名の通り、町内にお祀りされている八幡宮を勧進した山です。雨対策でビニールがかけられているのでよく見えませんが、山に乗せられた祠が金箔で覆われ輝いています。

 

いよいよ残り少なくなってきました。九番目は役行者山。前祭に出る山伏山とともに、修験道にちなんだ山です。役行者が大峰山と葛城山の間に橋をかけさせようとした故事にちなみ、役行者、一言主神、葛城神の三体が御神体として山に乗っています。巡行を先導するのは三人の山伏。そのうちの一人は、節分のとき聖護院でお見かけした方でした。

 

 

十番目は鷹山。くじ取らずです。長らく休み山になっていましたが、令和四年(二〇二二)、百九十四年ぶりに巡行に復帰しました。復興に向けて町の方たちがどれほど尽力されたことか。これから少しずつ白木の屋根に新しい歴史が刻まれていきます。

 

 

後祭のしんがりを勤めるのが十一番目、くじ取らずの大船鉾です。大変歴史のある鉾ですが、幕末の騒乱で被害を被り、以後休み鉾になっていました。巡行に復帰したのは平成二十六年(二〇一四)、およそ百五十年ぶりに勇壮豪華な姿を現しました。前祭の船鉾が神功皇后の出陣を、後祭の大船鉾が凱旋を表しています。

 

すべての山鉾が無事に出発したのを見届け、山鉾を追いかけるように御池通を東に移動しました。

 

巡行の際、くじ取り式で決められた順番が守られいるかどうかを確認するくじ改めという儀式が行われます。いわば関所のようなもので、京都市長が奉行役を務めます。場所は寺町。下は役行者山のくじ改めの様子です。

まず副使二名が粽を渡し挨拶をすると、続けて正使がくじの入った箱を手に進み出でます。

扇で紐をほどき、蓋を開けて奉行に差し出すと、奉行は山鉾の名と順番の書かれたくじを読み上げ、確認します。確認が終わると、再び扇で紐を箱に巻き付け、待機していた山に出発の合図を送ります。

扇で紐をほどき、箱の蓋をあけて差し出し、また蓋を閉めて扇で紐を巻き付けるという所作が行われている間、観衆の目が正使に注がれます。山鉾によってはこの責任ある正使役を子供が担うところもあり、一生懸命練習して臨むそうです。

 

くじ改めを終えた山鉾は、ほどなくして最初の辻回しに入ります。河原町御池の交差点に着いたとき、すでに辻回しを終えた山鉾が河原町通を南に進んでいました。

 

 

交差点の北東に場所を確保。しばらくして鷹山がやってきました。高さは十七メートル、重さは十トン。奥に見えるビルとほぼ同じ高さです。この巨大な山を九十度方向転換させるのが辻回し。巡行の中でも大きな見せ場です。

交差点にさしかかると辻回しの準備が始まります。割竹を道に敷き詰め、水をかけてその上を滑らせるように車輪を回転させるのですが、十トン近い重さですから並大抵のことではありません。一度に大きく動かしすぎても危険なので、一度に三十度ずつ、三回で回りきると大成功です。準備が整うと、扇を持った音頭取りが合図を送り、「えんやらやー」というかけ声に合わせ、曳手たちが綱を引き巨大な山を動かします。

 

無事三回で辻回しを終えると、大きな拍手がわき起こりました。

 

続けてしんがりの大船鉾です。

 

大船鉾も見事三回できれいに回りきり、河原町通を南下していきました。

山鉾巡行は勇壮さと優美さを兼ね備えていて、圧巻です。京都の町衆の力、文化、伝統の奥深さに感じ入りました。

巡行によって清められた道を、夕方御神輿が通ります。御旅所に安置されていた三基の御神輿が八坂神社に戻る還幸祭を実際に見ることも、長年の念願でした。後日還幸祭の様子を投稿しますので、よろしければまたご覧ください。

 

ちなみにお昼休憩のため大船鉾の辻回しを見て切り上げましたが、この後四十分ほどして天気が急変、ゲリラ豪雨に見舞われたそうです。「そうです」というのは、外の見えない場所にいて全く雨に気づかなかったためですが、山鉾によってはずぶ濡れになってしまったと後からニュースで知り、豪華な懸想品は大丈夫だったのだろうかと気になっています。鷹山も屋根が電柱と接触し、けが人も出たようで、大事に至っていないといいのですが。

祇園祭の時期に台風が来ることはときどきありますが、今回のような突然の豪雨というのはあまり例がないかもしれません。前夜、鷹山や南観音山、北観音山が御旅所に出向き、晴天祈願のお囃子を奉納したのですが、昨今の異常気象は神様の力でも制御が難しかったようです。

 

 

 

 

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