古社寺風景

室生龍穴神社

 

室生寺前の赤い太鼓橋を過ぎ、室生川の流れに耳を澄ませながら、さらに東に一キロほど歩いていくと、川に沿ってカーブした先に聳え立つ杉の巨木が目に飛び込んできます。

明らかにご神木とわかるその杉は、而二不二ににふにのご神木と呼ばれます。而二不二とは仏教用語で、而二とは一つのものを二つの面から見ること、不二とは二つの面があってもその本質は一つであるということを意味するのだそうです。樹齢は千年近く、幹の途中から二つに分かれ、見上げてもその先端が見えないほどですが、元を同じくして二つの幹を持つこの巨木は、まさに而二不二を表しています。

とくに境内の境界を示すものがないのですが、ご神木が聳えるこの辺りから神域ということなのでしょう。韋駄天をお祀りする小さな祠を過ぎると、巨木の群れに抱かれるようにして室生龍穴神社が鎮座しています。冒頭の写真のように二本の巨木の間に石の鳥居があり、まるで二重に結界が張られているようです。この日は良く晴れていたので、巨木に囲まれた境内の薄暗さが際立ちます。俗から聖へ。その切り替わりが明暗によって一層はっきりと示されています。

 

足を踏み入れると、巨木の隙間から光がスポットライトのように降り注いできます。目が慣れたということもあるでしょう。暗がりに入ったときのような軽い緊張はすぐに解き放たれ、小さな光に導かれ、拝殿に向かいました。

 

主祭神は高龗神たかおかみのかみ。『日本書紀』で伊弉諾尊が子である軻遇突智かぐつちを斬った際に三段に分かれ、雷神と大山祇神おおやまつみのかみと共に生まれたとある神さまで、高は山峰を、龗は水を司る神を表しています。現在はこれに加え、天児屋根命あめのこやねのみこと、大山祇命、水波能売命みずはのめのみこと、須佐之男命、埴山姫命はにやまひめのみことが配祀されています。当地の信仰の源は龍神ですから、それに近いものとして高龗神がお祀りされるようになったのでしょう。配祀されている五柱は明治の終わりに近隣から合祀されたものです。

室生寺のところでも触れたように、この辺りは古来龍神信仰が根付いた土地で、龍神は室生山にある洞窟に棲んでいたと考えられていました。その龍神を護法神としてお祀りすることに始まるのが室生寺の前身である室生山寺で、お寺が造られたのは桓武天皇が即位して間もない頃(七八一から数年のうち)と考えられていますので、龍穴神社に社殿が建てられたのは室生山寺創建後、そう遠くない頃のようです。明治の神仏分離まで、室生寺と龍穴神社はいわば一心同体の存在で、拝殿に向かう途中の広場のような場所には、かつて興福寺の学侶が参籠する般若堂があったそうです。

朱塗りの本殿は寛文十一年(一六七一)の建立と伝わります。古より続く水への信仰の地。静かに手を合わせました。

 

室生山にはいくつも洞窟がありましたが、その中でも特に大きいものが室生山の三龍穴と呼ばれ信仰対象になってきました。東谷にあるのが妙吉祥龍穴、西谷あるのが沙羅吉祥龍穴、中の尾にあるのが持法吉祥龍穴で、東谷の妙吉祥龍穴が龍穴神社の奥宮の御神体となっています。当社の信仰の原点。ここまで来たのですから、当然奥宮にもお詣りしたかったのですが、あいにくなことに土砂崩れと落石で通行止めになっていました。奥宮近くには天の岩戸と呼ばれる巨岩もあり、九穴八海(九穴は三つの龍穴と六つの岩屋、八海は五つの淵と三つの池)を直に見ることができるようですので、折を見てまた訪ねたいと思います。行きたいところに行けないというのは、またそこを訪ねる機会が与えられたということです。室生寺が石楠花の時期も良さそうなので春がいいかもしれません。

 

 

ちなみに現在奥宮へは神社東の林道から行くようになっていますが、その道が出来る前は冒頭に触れた而二不二のご神木と神社の境内の間に流れている渓流沿いを上っていったのでしょう。

 

 

 

 

 

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