豪華な山車(曳山)が繰り出す祭は、その土地のかつての繁栄を伝えるものです。その最たるものが京都の祇園祭ですが、京の都に隣接する近江国(滋賀県)でもその影響を色濃く受けた曳山祭が多数伝わっています。長浜、日野、大溝、浅小井、米原、大津…といった具合で、東海道の宿場町だった水口でも水口を開拓した大水口宿禰命を御祭神とする水口神社の例祭として毎年四月十九日、二十日に行われています。
水口曳山祭の始まりは享保二十年(一七二五)と言われています。その数年前西日本では大飢饉による一揆が頻発していたというご時世で、水口でも宿役負担も加わり困窮を極めましたが、次第に物価も安定し生活にゆとりがでてきたことから、水口宿の九つの字(天神、天王、西町、東町、伝馬、悔町、新町、中町、美濃部)が曳山を出し、水口のさらなる繁栄を願って水口神社に奉納するようになりました。
最盛期には三十基ほどの曳山がありましたが、現在は十七町内に十六基が伝わり、滋賀県内最多を誇ります。祭ではこのうち五~八基が奉納されます。
ちなみに写真下は水口神社脇にある曳山を収納している蔵。水口を歩いているとあちらこちらでこのような蔵を見かけます。
曳山は高さ五メートルほどの二層露天式。下段には囃子方が乗って軽快な水口ばやしを奏で、上段には近江に縁の名所や故事に題材を求めたものや、最近の流行を表したダシと呼ばれる飾りが施され、華やかさを競っています。
水口曳山祭で最も惹かれるのは、大太鼓、小太鼓、鉦、篠笛で演奏される種類豊富な水口ばやしです。水口ばやしは、曳山が平坦な道を進むとき、下り坂や辻回しのとき、上り坂や宮入のとき、神社に曳山を奉納するときと、それぞれ曲調を変えて演奏されるのですが、それらは曳山町によっても若干異なり、実に変化に富んでいます。
京都祇園祭の祇園囃子はゆったりとしたテンポで優雅な感じですが、水口ばやしはアップテンポで力強く、野趣に富んだ音色で、これが水口の土地の音色なのだなと思いながら聞き入りました。
水口神社に曳山が奉納されると、その後は御輿の渡御です。
写真でもおわかりのように、私が水口曳山祭を見に行った日は雨模様で、水口神社に勢揃いした曳山にビニールがかけられ残念でしたが、後から知ったことに水口曳山祭は雨祭と呼ばれるほど、昔から雨に降られることが多かったようです。
水口曳山祭は滋賀県の無形民俗文化財に指定されています。